「高密度バリオン物質と中性子星の構造解明」は、21世紀の原子核物理学における最重要課題の一つであり、素粒子・宇宙の基本問題とも密接に関係している。核子同士に働く二体核力や三体核力は、短距離で強い斥力となることで実在する中性子星がブラックホールに重力崩壊することを防ぐと考えられているが、そのような短距離力の記述はこれまで現象論に留まっていた。高密度の中性子星中心部に出現すると予想されるハイペロンについても、その相互作用は現象論に留まっていた。これらの問題を解決するため、基礎理論であるQCD(量子色力学)に基づいてバリオン間相互作用を導出する本格的研究が、本研究代表者らのHAL QCD 共同研究グループで開始されている。観測面では、中性子星合体からの重力波観測 (GW170817)、X線観測による中性子星半径の測定が近年報告されており、基礎理論の進展と新たな観測がタイミングよく交差しつつある。
中性子星の質量・半径・潮汐変形などを中性子星の内部構造の情報に結びつけるには、高密度バリオン物質の状態方程式を微視的に導出する必要がある。本基盤研究では、核子やハイペロンの相互作用に関する格子QCD計算を推進し、それをもとにゼロ温度および有限温度の状態方程式の構築を行う。得られた状態方程式は、数値テーブル化し公開することで、連星中性子星の合体事象の解析への応用を促す。さらに超高密度でのクォーク相を現象論的に考慮した数値テーブルを公開し、クォーク物質が重力波形に及ぼす影響の研究を促進する。
公開資料:(日)h30_jp_18h05236 (英)h30_en_18h05236